省エネ基準と住宅ローンは無関係?

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住宅の性能に影響される住宅ローンがある

住宅ローンを借りることができるかどうか、金利はいくらになるのかといったことは、通常は借りる人の収入や職業などによって左右され、どのような住宅を購入するのかは(違法物件でない限り)影響を受けません。

しかしローンの中でもフラット35の場合だけは、購入物件によって融資の可否等が変わってきます。

融資条件の人と住宅とのウエイトの違いのイメージ図

公的な融資制度であるフラット35では、購入する住宅についての条件を厳しくする一方で、借入れ希望者の個人属性についての条件を緩めており、こうすることでより多くの国民が住宅取得出来るようにしています。

すなわち通常の住宅ローンでは借りられない人でも、フラット35ならば物件次第で融資を受けられる可能性があるのです。

さらにフラット35では、住宅の性能によって金利の引き下げを一定期間行う制度も準備されていて、物件次第で借入れの内容も変わるものになっています。

政府が重要視している住宅の省エネルギー性能

フラット35は公的な資金を活用した融資制度であるため、公的な政策目的にかなった物件が重視されます。その代表的なものとして省エネ住宅があげられます。

一般住宅と省エネ住宅の違いのイメージ図
一般住宅(左)と省エネ住宅(右)の違いのイメージ図

省エネ住宅とは、建物の外壁や窓などの断熱性能を高めたり、高効率の冷暖房設備などを用いることにより、屋内の生活で消費するエネルギーを少なくなるようにしたものです。

建物の省エネ化が公的施策として重視されるのは、地球規模の環境問題への取り組みとして温室効果ガス排出量の削減を進める必要があるからです。

そして住宅で暮らす人にとっても、省エネ住宅は夏に涼しく冬は暖かい快適な生活をもたらし、特に高齢者にとってはヒートショックによる生命に関わる事態を防ぐ手段としても有効なものとなっています。

住宅の省エネ性能は、地球環境への対応や高齢化社会への対応といった政策面から非常に重要な住宅性能として扱われています。

省エネ性能の尺度として作られた省エネ基準

省エネ性能に着目して住宅を作ったり買ったりするためには、省エネ性能を測る尺度が必要です。その尺度は法律で定められていて、これを省エネ基準と呼んでいます。

省エネ基準の最初のものは昭和55年(1980年)に定められました。その後幾たびもの改正を経て現在に至っていますが、呼び名が変わる大きな改正は4度行われています。

省エネ基準の変遷
省エネ基準の変遷

最初の基準である昭和55年基準は、旧省エネ基準とも呼ばれています。平成4年基準は新省エネ基準、平成11年基準は次世代省エネ基準という通称があり、ハウスメーカーのパンフレット等にも使われていました。

最初からの3つの省エネ基準では、建物の外壁や窓などの外皮の断熱性能をもって省エネルギー性能としていました。この外皮の断熱性能を改正ごとにレベルアップさせて行ったのです。

3度目の改正により生まれた平成25年基準では、省エネルギー性能自体の考え方が変わり、評価指標が変更されています。

平成11年基準と平成25年基準の違いのイメージ
平成11年基準と平成25年基準の違いのイメージ

平成11年基準までは、省エネルギー性能といっても住宅の場合は消費エネルギーの削減量を直接評価するのではなく、外皮(外壁、屋根、床、窓など)の断熱性能を評価するという間接的な形で省エネ基準を定めていました。

しかしこの評価方法では、冷暖房などの設備の高効率化による省エネルギー対策が評価されません。また太陽光発電を導入することで化石燃料の使用を削減するという取り組みも評価されないことになります。

平成25年基準では、評価指標として一次エネルギー消費量を採用することにより、冷暖房や太陽光発電などの設備性能も含めた省エネルギー性能を評価するように変更されました。

ただし、設備性能に頼った省エネ化を行う反面で建物外皮の断熱性能がなおざりにされてしまうと屋内の温熱環境が確保されなくなってしまうので、外皮の断熱性能については平成11年基準相当の水準が求められるようにもなっています。

最後の大きな改正である平成28年基準(現行基準)は、建築物の省エネ基準の根拠法令が従来の省エネ法から建築物省エネ法に移行したことに伴う改正で、基準の内容については平成25年基準と大きな違いはありません。

なお政府の将来目標としてZEH(ゼッチ)基準が定められており、これに向けた段階的な先導的基準として、誘導基準やトップランナー基準も定められています。

フラット35では省エネ基準で測らない?

省エネ基準は不動産販売のパンフレットや広告にもよく用いられます。また公的機関では、省エネ基準を満たした住宅を省エネ住宅として扱うのが原則です。

しかし省エネ基準には困った部分があります。それは前述したように何度も改正されて、現行のもの以外は法律上失効しているということです。

省エネ性能を分かりやすく表示するためには、段階的な表示をするのがよく、そのためには過去に用いられた省エネ基準も併用して示すのが便利なのですが、公的制度であるフラット35では、法律上失効したものを直接用いることが出来ません。

このためフラット35では、省エネ性能を住宅性能表示制度の等級で示すことがよく行われています。

フラット35パンフレットより抜粋
フラット35パンフレットP16より抜粋

住宅性能表示とは、平成12年(2000年)に施行された住宅の品質確保の促進等に関する法律(通称:品確法)により定められたもので、省エネ基準とは別の制度です。

しかし便利なことに、住宅性能表示の省エネ性能に関する等級は、省エネ基準に対応するように定められているのです。

住宅性能等級と省エネ基準の対比
住宅性能等級と省エネ基準の対比

住宅性能表示において省エネルギーに関する性能は、「5 温熱環境・エネルギー消費量に関すること」が該当し、断熱等性能等級と一次エネルギー消費量等級の2つの項目があります。

断熱等性能等級は、外皮(外壁、窓など)の断熱性能を示しており、等級2が省エネ基準の昭和55年基準に相当しており、等級3は平成4年基準に相当しています。

断熱等性能等級4はかつて平成11年基準相当となっていましたが、省エネ基準が平成25年基準になったときに、その外皮断熱性能に相当するものに改正されており、平成28年基準ができた際にも同様に改正されています。

断熱等性能最上位の等級5は省エネ基準ではなく、政府将来目標であるZEH基準相当となっています。

なお断熱等性能等級は、平成25年基準の改正までは省エネルギー対策等級という名称になっていました。

もう一方の一次エネルギー消費量等級は、省エネ基準が平成25年基準において新たに採用した一次エネルギー消費量により定められています。

この新たな省エネ基準に相当するものは等級4となっていて、断熱等性能等級と合わせています(このため等級2と3は制定していません)。制定当初の等級4は平成25年基準が相当し、現在は平成28年基準です。

一次エネルギー消費量の等級5は、省エネ基準ではなく都市の低炭素化の促進に関する法律(通称:エコまち法)による低炭素基準に相当するものとなっています。

最上位の等級6では政府将来目標であるZEH基準相当の水準を定めています。ただし太陽光発電等の再生エネルギーの導入がなくとも達成可能なZEH oriented の基準を用いています。

以上のことから、省エネ住宅の住宅ローンについては、フラット35と省エネ基準と住宅性能表示という3つの公的制度(および基準)を組み合わせて理解することが必要であることが分かります。

3つの公的制度のイメージ

ローンの仕組みに対する理解不足は、住宅取得の資金計画に悪影響をもたらします。面倒を避けずに3つの制度への理解を深めることが非常に重要となります。

フラット35技術基準の基本

フラット35の基準のうち、購入予定の物件についての基準を技術基準といいます。技術基準は、必須基準と選択基準に分かれています。

フラット35技術基準の種類
フラット35技術基準の種類

必須基準は、フラット35融資を受けるために必要な必須要件です。他の条件を満たしていたとしても、取得予定の物件が必須基準に適合しなければフラット35の融資そのものが受けられなくなるという非常に重要な基準です。

選択基準は、フラット35S(エス)と呼ばれる一定期間の金利引き下げを受けるために必要な要件です。(正式名称:優良住宅技術基準)。

選択基準は4種類あり(1.省エネルギー性、2.耐震性、3.バリアフリー性、4.耐久性・可変性)、この4つのうちどれか一つを満たせば金利引き下げが可能になります。

金利引き下げ期間は2タイプあり、5年間のものを金利Bプラン、10年間のものを金利Aプランと呼んでいます。それぞれで基準も異なります。

省エネルギー性に関する基準は、必須基準と選択基準のそれぞれに存在します。基準の内容は異なっています。また新築住宅と中古住宅(既存住宅)で基準が違っている場合もあります。各基準を混同しないように注意を要します。

新築住宅は今後のフラット35基準強化に注意

省エネ性能に関するフラット35技術基準のうち、新築住宅について整理してみます。(※令和3年4月の基準)

新築住宅のフラット35技術基準
新築住宅のフラット35技術基準

新築住宅の必須基準の中に、断熱等性能等級2相当であることが定められています。断熱等性能等級2は、省エネ基準では昭和55年基準に相当するものです。

選択基準(フラット35S)の金利Bプランでは、断熱等性能および一次エネルギー消費量ともに等級4が求められています。これは現行の省エネ基準と同等の水準です。

フラット35Sの金利Aプランは、省エネルギー関連では一次エネルギー消費量等級5のみを必要としており、断熱等性能等級についての定めはありません。これは低炭素基準の規定に合わせているためです。

新築住宅のフラット35と省エネ基準の対応表
フラット35と省エネ基準の対応(新築)

新築住宅の場合は、必要とする基準に合わせて物件の設計や施工を行って、物件検査に合格するようにすればフラット35の適合証明書が発行されるので、追加工事や追加費用等の可否が着目点となります。

昭和55年基準に求められる仕様は、東京や大阪等の非寒冷地では外壁グラスウール35mmに窓単板ガラスといった水準で、現在の新築住宅では通常仕様でも十分にクリアできるものです。

つまりフラット35の融資を受けるためだけであれば、省エネ性能については追加工事等がなくとも対応可能となっています。(注:令和5年からは現行省エネ基準が求められる予定となっています)

現行の省エネ基準を必要としているのは、選択基準(フラット35S)の場合、すなわち金利の引き下げを受けようとする場合です。

平成28年基準(現行基準)に対応した仕様は、非寒冷地では外壁グラスウール100mmに窓は複層ガラスといった水準になるため、従来の通常仕様よりもグレードアップとなるケースも多くなります。

しかし住宅の省エネ基準については、令和7年(2025年)に義務化が予定されており、これに先立って説明義務制度が令和3年(2021年)から既に実施されています。

したがって現行基準への対応は進められている状況にあり、金利Bの引き下げを受けることについては対応できる場合が多いと考えられます(注:令和4年10月からは現行省エネ基準プラスαが求められる予定となっています)

金利Aの引き下げを受けるためには、標準的な仕様よりも追加工事等が発生する場合がより多くなると考えられ、また現在求められているのは低炭素基準ですが、今後さらに強化される予定となっています。

新築住宅は基準に合わせて住宅を作ることが可能なため、政府が目標とするZEH基準に向けてフラット35技術基準も今後強化されていくことに注意が必要です。

中古住宅は金利Aタイプ以外で緩和されている

中古住宅について、省エネ性能に関するフラット35技術基準を整理してみます。(※令和3年4月の基準)

中古住宅のフラット35技術基準
中古住宅のフラット35技術基準

中古住宅では、必須基準に省エネルギーに関する項目は設けられていません。選択基準(フラット35S)のみに省エネ関連項目が存在します。

中古住宅のフラット35S金利Bの基準は、少々分かりにくい表現がなされています。これは中古住宅が建築時において省エネ基準を満たしたものを対象と出来るようにしているためです。平たい表現にすると断熱等性能等級2相当以上といえます。

フラット35Sの金利Aプランは、新築住宅と同様に低炭素基準に合わせたものとなっています。ZEH基準に対応した住宅性能等級の改正は令和3年12月であるため、フラット35では未対応となっています。

中古住宅のフラット35と省エネ基準の対応表
フラット35と省エネ基準の対応(中古)

中古住宅の場合は新築と違い、現行基準に合わせるということは難しいものです。基本的には建築時の性能に左右され、現行基準に合わせることが出来るのはリフォームするときに限られるのが一般的です。

こうした中古住宅の制約から、必須基準に省エネルギーに関する項目を設けておらず、現行の省エネ基準はもとより過去のいずれの省エネ基準にも適合しない物件であっても、フラット35の融資自体は受けられる可能性をもつようにしてあります。

また選択基準(フラット35S)の金利Bタイプにおいても同様に、中古住宅では新築住宅よりも緩和された基準が用いられており、断熱等性能等級2相当の物件でも適合可能なものとなっています。

しかしフラット35Sの金利Aタイプでは、新築と同じ低炭素基準相当が求められており、リフォームによるグレードアップが必要となるケースが多いと考えられます。

中古住宅は省エネ性能が低くても政策上よいのか

前述のように中古住宅のフラット35では、金利Aタイプを除いて省エネ関連の技術基準が新築住宅よりも緩和されており、特に必須基準には省エネ項目がありません。

フラット35技術基準の新築と中古の違い
フラット35技術基準の新築と中古の違い

融資を受けるためのハードルが低くなるというのは、借入れする立場からは有難いことなのですが、政策として矛盾しないかと心配する人もいるかと思います。

地球環境のための省エネルギー化という政策としてみると、中古住宅においてもフラット35では高い省エネ性能を融資条件にするべきだという考えもありそうです。

しかしフラット35の役割として、民間金融機関が融資しにくい分野を補完し、より多くの国民が住宅取得出来るようにする必要もあります。

もし中古住宅のフラット35に省エネ性能を必須基準として求めてしまうと、省エネ基準を満たさない物件が多いために中古住宅の流通を阻害するばかりでなく、中古住宅の取り壊し等によるエネルギー消費の増大を促進しかねません。

融資そのものについては幅広い消費者に対応し、金利の優遇措置については省エネ性能が高い住宅の購入者に対応するようにした方が合理的になるとも考えられます。

融資制度であるフラット35がすべての中古住宅に高い省エネ性能を求めないことは、地球環境保全という視点からは必ずしも矛盾していないのです。

中古のフラット35には省エネ基準とは別の基準もある

フラット35Sの金利B(中古)は、昭和55年基準相当の省エネ性能でも対象になるのですが、エビデンスとなる書類が残っている中古物件が少ないという問題も存在しています。

住宅の外壁等に用いられる断熱材は現地調査での判定が難しいため、建設時の書類をエビデンスとして基準の適合を確認するのが原則となっているのですが、その書類が残っていなかったり、そもそも作成されていなかったりすることが非常に多いのです。

しかし一方で、フラット35では省エネ基準とは別の省エネについての基準が住宅金融支援機構によって独自に設けられており、開口部断熱と呼ばれています。

複層ガラスの写真
【フラット35】 技術基準・検査ガイドブックP31より抜粋

開口部断熱とは、外壁等の仕様に関わりなく、窓といった開口部のみの仕様で判断できるもので、現地調査だけで適合性を確かめることが出来るようになっています。

開口部のみで断熱性能を高めるという考え方なので、昭和55年基準では通常必要としない複層ガラスか二重サッシを必要とするのですが、書類のエビデンスが不要という利点が大きいのです。

この仕様がフラット35で昭和55年基準のものと並んで扱われるのは、住宅金融支援機構の前身である住宅金融公庫の時代に、割増融資の対象となる省エネルギー仕様として扱われていたためです。

まさに住宅金融公庫のレガシー(遺産)と言えるでしょう。

[参考資料]
住宅金融支援機構HP 【フラット35】中古住宅の物件検査

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フラット35の融資を受けるためには、省エネ性能以外にも多くのハードルがあり、出来るだけ早期に物件検査を行うことが望まれます。

早期調査に適したシステムもあるので、早期調査を検討してみてください。

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