売買に最も有利な耐震基準適合証明書とは

【最新情報!】
令和4年度税制改正が国会にて成立すれば、『登記簿上の建築日付が昭和57年1月1日以降の家屋』については、『住宅の取得等をして令和4年1月1日以後に居住の用に供した場合』の住宅ローン控除は、耐震基準適合証明書がなくとも適用となります。以下の記事の内容は、これにより変わる可能性があるのでご注意ください。

 

耐震基準適合証明書はどんな物件でも発行できる訳ではありません。逆に言えば、発行できる物件は資産価値が高い物件だということです。しかし発行できるかどうかを調査しなければ資産価値は眠ったままです。

やってみないと分からないという不確実性(ギャンブル性)をもつ耐震基準適合証明書において、その発行可否を明らかにしてギャンブルでない円滑な売買取引を進めるためにはどうあるべきなのか?

新耐震で建てられた物件を念頭に、そのもつべき特長について解説します。

大臣認定の耐震診断で短期・低コストの発行

耐震基準に適合する旨の証明にあたっては耐震診断の結果から地震に対する安全性を確認しなければなりません。耐震診断はもともと旧耐震設計で作られた建物を耐震改修工事するために行うものであるため、住宅購入に伴う減税のために行うには時間や費用の制約から実施が難しくなっていました。

しかし新耐震で建てられた物件の場合は、耐震改修工事の要否を判定する必要はありません。つまり旧耐震の物件とは目的が違っています。目的が違えば手法も違うものになります。すなわち新耐震基準による耐震診断を用いて、減税を目的とした耐震基準適合証明書の発行を行うことが適切となります。(ちなみに旧耐震物件を対象とする手法は耐震診断基準による耐震診断と呼ばれます)

この新耐震基準による耐震診断法は、耐震改修促進法からの規定により平成21年に国土交通大臣の認定を受けた診断法です。耐震診断では構造計算に多くの時間や費用がかかるのですが、新築の際に構造計算が行われたことを活用して現地調査でフォローする方法により、短期間・低コストでの証明書発行を実現できるものです。

[参考資料]
国土交通省HP H17住宅関係税制改正の概要(PDF)

租税特別措置法第41条第1項

租税特別措置法施行令第26条第2項

H17国土交通省告示第393号(PDF)

H18国土交通省告示第185号(PDF)

H18国土交通省告示第184号(別添)(PDF)

H21国住指第2072号 耐震診断法の大臣認定書(PDF)

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プレハブ住宅の証明が可能

ここでのプレハブ住宅とは、かつての工業化住宅性能認定を受けていた一戸建て住宅を指します。現在ではプレハブ住宅メーカーが建築基準法の型式適合認定や型式部材等製造者認証を取得した住宅となっています。軽量鉄骨造の住宅が多いですが、木質系のプレハブ住宅やコンクリート系のものもあります。

これらのプレハブ住宅は、量産化や高品質化のために特殊な構造を採用しています。そして法定の認定を受けることで、構造計算の規定の一部が適用除外となっていたり、構造図等の図書が確認申請時に添付不要となっていたりします。このため設計図書だけでは耐震性能に関する判断がしにくくなっています。

構造計算を行って耐震診断をする手法もあるのですが、各住宅が認定を受けたシステムごとに構造方法や部材形状等が異なるので、各住宅メーカーでなければ計算が出来ず、しかもそのためのデータも残っていなければ計算出来ません。当然その住宅メーカーが現存していない場合は計算が不可能となります。

しかし前述の新耐震基準による方法は、新たな構造計算を行わずに耐震基準の適合判定をする方法です。このため、プレハブ住宅でも耐震基準適合証明書の発行が可能となっています。現存しないハウスメーカーのプレハブ住宅であっても証明可能です。

[参考資料]
日本の工業化住宅(プレハブ住宅)の産業と技術の変遷(国立科学博物館 刊、東郷武 著)P278-283(PDF)

鉄鋼系工業化住宅の耐震診断法 P4(プレハブ建築協会)(PDF)

小規模建築物の増改築における 建築確認申請の手引き P39(PDF)

建築基準法第68条の10、第68条の11

マンション住戸での証明が可能

マンションは建物の規模が大きいため、構造計算にも時間や費用が大きくかかってしまい、個人が耐震診断を実施するのは事実上困難でした。しかし前述の新耐震基準による耐震診断では新たな構造計算を行わないため、時間や費用を個人が実施可能なレベルに抑えることが可能です。

また通常の耐震診断は耐震改修工事の要否を判定するのでマンションでは他の区分所有者に影響が生じることもありますが、新耐震基準によるものでは耐震改修の要否は判定しないものとなっています。

判定により生じるのは住宅ローン控除等の可否のみであり、耐震基準適合証明は各住戸ごとの証明となるため、その結果が管理組合や他住戸の区分所有者に影響を及ぼすこともありません。

マンションの共用部分の調査も行いますが、すべて非破壊であり、日常的な利用の範囲内で行うことができますので、管理規約等に従って実施することが可能になっています。

新耐震基準による耐震診断ではシュミットハンマー試験を必要としないため、瑕疵(かし)保険で用いられるインスペクション(既存住宅状況調査)のような共用部分への影響は生じないことも大きな特長です。

[参考資料]
区分所有法第6条、第13条、第18条

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かし保険よりも高確率で発行

住宅ローン控除等の減税に必要な耐震基準に適合する旨の証明書としては、純正品的な存在である耐震基準適合証明書のほかに、互換品的な存在として住宅性能評価書と瑕疵(かし)保険加入の証明書があります。

耐震基準適合証明書は住宅減税に特化した目的のものなので、発行基準はその目的に対して必要な項目のみで構成されています。しかし他の2つは本来の発行目的が減税とは別であるため、住宅減税とは関連のない多くの項目もクリアーする必要が生じています。

特に瑕疵保険は、主要構造部分の欠陥に関する保証とともに、雨水の浸入を防止する部分の欠陥に関する保証も目的としています。このため瑕疵保険加入のために行われるインスペクション(既存住宅状況調査)では、雨水の侵入に関する項目の検査が数多く立ちはだかります。しかも防水に使われるシーリング材は劣化しやすいなどのため、検査項目をすべてクリアーすることはかなり難しくなっています。

一方、新耐震基準による方法を用いた耐震基準適合証明書では雨水の侵入に関する判定項目はありません。新築時に完了検査を受けた物件であれば、瑕疵保険よりも高い確率で証明書を発行することが可能となっています。

[参考資料]
租税特別措置法施行規則第18条の21第2項

H21国土交通省告示第685号(PDF)

国土交通省 既存住宅状況調査方法基準の解説 P5-14(PDF)

H13国土交通省告示第1347号 評価方法基準 P2-25(PDF)

現所有者に配慮した手法

耐震基準適合証明書は租税特別措置法および関連法規により規定されており、その条文解釈上から申請者は所有者である売主がなるのが原則です。減税を受けることとなる買主からの依頼を受けて申請者となるケースが多いので、売主の方の負担が増えないような配慮が必要となります。

調査手法はすべて非破壊のものを採用することが適切となり、耐震性の判定に関係のない項目については検査対象とすべきではありません。目的外のことで自分が所有するものを評価されるのは精神的な負担が生じる可能性があるためです。

売買契約前の調査の場合、判定を行ったにも関わらず契約に至らないケースもあります。もしインスペクションであれば、このようなケースでは次以降の購入希望者に対してもインスペクション結果が重要事項説明の対象となり、負担増加となる可能性があります。しかし新耐震基準による耐震診断では、新耐震設計で作られた建物に限定されるため、重要事項説明の対象とはなりません。

また新耐震基準による耐震診断では、耐震改修工事の要否は判定しません。したがって結果証明書が発行されない判定が出た場合であっても、耐震改修工事が必要な建物になる訳ではありません。

[参考資料]
宅地建物取引業法第35条第1項第6号の2

宅地建物取引業法施行規則第16条の2の3第6号

住宅ローン控除の厳格化に備えた報告書付き

住宅ローン控除は10年間減税が受けられるものですが、耐震基準適合証明書が必要なのは1年目の確定申告だけです。最初の審査さえ通れば、通常は10年間減税措置の対象になります。しかし、確定申告の後はまったく何もないという訳ではありません。

確定申告の後で税務調査を受ける場合があります。法人だけでなく、個人事業主や会社員も対象になることがあります。確定申告の時は、提出された書類は適切に作成されたという前提で審査するという形式審査ですが、税務調査では提出書類の内容が適切かどうかを調べる内容審査になるという違いがあります。

今までは住宅ローン控除が税務調査の対象になる可能性は非常に低かったのですが、住宅ローン控除そのものは減税額として決して小さいものではなく、調査対象となるポテンシャルは持っているといえます。そして近年、住宅ローン控除の運用を厳格化する動きが出てきています。

平成30年度に会計検査院は、住宅税制租税特別措置の検証は適切に行われているか等の検査を財務省や国土交通省等に対して行い、審査状況の誤り等を指摘して審査マニュアルの見直しなどを行わせています。さらに審査の実施状況について、引き続き注視していくことも示しています。

耐震基準適合証明書については明らかにされていませんが、税務調査の対象となったり、確定申告で内容審査が行われる可能性も考えられます。耐震基準適合証明書の発行にあたっては、内容審査にも対応できるように証明理由を記載した業務報告書を証明書発行の際に添付する必要があり、住宅ローン控除の運用厳格化に備えたものとしなければなりません。

[参考資料]
会計検査院HP 平成30年度決算検査報告 第3章第1節第6

会計検査院HP 平成30年度決算検査報告 第4章第3節

国土交通省HP 建築士等の行う証明について(PDF)

国の基準にもとづく安心な証明書

新耐震基準については、類似した用語や制度が複数存在するために、専門家でも混乱しやすいものとなっています。例えば東京都の場合、一つの行政機関の中に類似した2つの制度が併存しています。

耐震改修促進法第22条に「建築物の地震に対する安全性に係る認定」という規定があり、この認定を受けると基準適合認定建築物となって所定の「表示マーク」を建物や広告に用いることが出来るようになります。マークの呼び名は自治体によって異なり、あん震マークや耐震マークなどと呼ばれています。マークのデザインは国が省令で定めており、全国共通で次のようなものとなっています。

基準適合認定建築物の表示マークのデザイン
(国の制度の表示マーク)

東京都においても、この認定が出来るように耐震改修促進法の施行細則を定めています。しかし実際にはほとんど使われていません。その理由は、東京都には独自の耐震マーク制度があるためです。

東京都の独自制度は、国の制度が出来るよりも先に作られており、耐震改修促進法ではなく、東京都の制度要綱にて規定されています。耐震マークのデザインも独自のものを使っていて、次のようなものです。

東京都耐震マークのデザイン
(東京都独自制度の表示マーク)

東京都耐震マークは、所有者ではない管理者も申請者になれたり、現地調査が不要であるなど、国の制度に比べると手続きが手軽なものとなっており、普及しやすいという長所があります。一方で現況確認をせずに交付するため、新築後に増改築や劣化による耐震性能の低下が生じていても交付されてしまうという欠点があります。

もしそのようなことを耐震基準適合証明書で行ったとしたら、減税を目的とした証明書であるため、国税通則法第65条等に規定される加算税の対象となったり、不正行為として所得税法第238条等に規定される罰則の対象となる可能性もあるでしょう。制度の違いの見極めは非常に重要です。

国の制度である耐震改修促進法に規定される耐震診断では、実地調査(現地調査)に基づいて地震に対する安全性を評価するよう定められています。さらに租税特別措置法からの規定では、取得家屋の実地調査を行った日付を記載するように証明書の書式が定められてもいます。住宅ローン控除等は国が定めた減税制度であるため、国が定めた基準の証明書が必要です。マンションの専有部分も現地調査を行うなど、国が定めた手続きに対応して発行することが必要です。

[参考資料]
耐震改修促進法第22条

耐震改修促進法施行規則第33条、第35条

東京都耐震改修促進法施行細則(PDF)

東京都耐震マーク表示制度要綱(PDF)

東京都HP 東京都耐震マーク表示制度について

横浜市HP 建築物の地震に対する安全性に係る認定について

国税通則法第6章第2節加算税

所得税法第6編罰則

H18国土交通省告示第184号(別添)(PDF) [再掲]

共有の場合でも料金は同じ

耐震基準適合証明書の書式は租税特別措置法からの規定で定められているのですが、申請者の住所と氏名が一つずつに分かれています。このため売主側の所有権が共有である場合は、原則として申請者が複数となって、証明書の枚数も複数(申請者数)となります。

また買主側の事情についても、取得する住宅を共有名義にしてペアローンや連帯債務によって住宅取得資金を借り入れる場合は、原則として耐震基準適合証明書が複数必要となります。

同一書式の証明書が何枚必要になるかは事前に税務署等への確認が必要ですが、共有者の数が多い物件では十枚以上の証明書が必要になる可能性もあります。このような場合は枚数に応じた料金ではなく、枚数によって料金が変わらないようなものが望ましいと言えます。

[参考資料]
国土交通省 耐震基準適合証明書様式 記入例(PDF)

国税庁HP 質疑応答事例 所得税

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先行調査しやすい課金システム

確定申告の時期になると毎年必ず当研究所に来る問合せは「引渡しの後なのですが今から証明書は出してもらえますか?」というものです。租税特別措置法は厳格な法律になっていて、このような場合に減税要件を満たす証明書を出すことは不可能ですので当然お断りしておりますが、いつも心苦しい思いとなります。

こうした事態は、買主に起きた不幸のように見えますが本当にそれだけでしょうか?もし適合証明書が出せていたのなら、買主は最大200万円の減税を受けられたはずですが、一方の売主にとっても契約前に減税対象と分かっていれば、契約したよりも高い金額で売却できた可能性がある訳です。

極端な言い方をすれば、買主の200万円が国に行ったのではなく、買主の100万円と売主の100万が国に行ったという捉え方が実際の姿に近いのではないでしょうか?

耐震基準適合証明書の制度が本来想定していたのは、売買契約前の発行です。そうすれば、所有者として費やした維持管理(例えばマンションの修繕積立金等)のリターンとして売却価格に反映させることが可能だからです。維持管理によって適合証明書の発行可能性は大きく左右されるものとなっており、建物の維持管理を促進して国土の防災能力を高めることを意図して減税対象としているのです。

ところが実際には、売主側が物件の売り出しに先行して家屋調査を行って減税の可否を確かめることは滅多にありません。売主側にリスクがあるからです。費用をかけて調査しても証明書が出ない可能性があるからです。売主は減税を直接受ける訳ではないので、どうしても二の足を踏んでしまい、結局は調査を買主次第ということにしてしまって、最悪のケースが前述の確定申告時の話ということになります。

このような先行調査を妨げるリスクとして、下記のケースが考えられます。
a)調査したら基準への適合が確認できず証明書が発行できなかった。
b)調査して発行可能だったが対象物件の売買契約は成立しなかった。
c)調査して発行可能だったが買主の融資が承認されずに売買契約が解除となった。
d)証明書発行の費用負担について売主買主間の合意が出来なかった。
e)引渡日が築後20年(マンション等は25年)より後になると見込んで調査したが、それより早く引渡しになったので耐震基準適合証明書が不要になった。

もしa~eのケースが生じたときに料金を柔軟に対応する課金システムであれば、先行調査のリスクは大きく減少します。先行調査により減税の見通しを明らかにした上での売買取引こそ、売主と買主の双方に最もメリットがあることは言うまでもありません。

このような課金システムをもった耐震基準適合証明書の発行業務については、下記のページをご覧ください。

a~eのケースでは課金なし

耐震基準適合証明書は、中古住宅で一定年数以上経過した物件にて、住宅ローン控除等の住宅減税を受けるために必要となるものです。しかし調査の結果次第では発行できないことがあるなどのため、その不確実性(ギャンブル性)が売主や買主のいずれにとっても円[…]

 

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