耐震基準適合証明書はすぐに発行できるのか?

申請の後にも前にも時間が必要となる

耐震基準適合証明書の発行までの基本的なフローは、図のような流れになっています。

耐震基準適合証明書発行の基本フロー

まず第一に、耐震基準適合証明書は申請すればすぐに発行されるというものではなく、また必ず発行されるというものでもありません。

マンションでは管理組合が発行するものと誤解する人がいますが、管理組合は証明書を発行することはなく、また申請することもありません。各住戸の所有者が建築士に申請することになります。

申請を受けた建築士は、申請対象の住宅を調査して、耐震基準に適合することが確認された場合に限り証明書が発行されます。発行までには、調査や確認などのための時間を必要とします。

また、申請までに時間を要する場合があります。耐震基準適合証明書の申請は所有者である売主が行うのが原則なのですが、物件の所有権が共有になっている場合は、共有者全員による申請が必要になるので相応の時間を要することになります。

買主が売主に申請を依頼する場合には、売主が依頼を受諾するまでに時間がかかることもあります。売買契約後に依頼をする場合は特に注意が必要です。

なお原則外となる共有者の一部による申請や買主による申請については、その可否や方法について税務署に確認する必要があり、これにも相応の時間を要することになります。

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適合確認調査は3タイプに大別される

建築士が耐震基準の適合を確認するために要する時間は、その調査方法によって異なります。調査方法はまず大きく分けると、対象物件が旧耐震なのか新耐震なのか、対象物件が耐震診断を実施済みであるかどうかで3タイプに分かれます。

Aタイプ:旧耐震で耐震診断が未実施の場合

旧耐震で耐震診断が未実施の場合の調査構成

申請を受けた建築士が対象物件の耐震診断を行い、それに基づいて判定を行うものです。

耐震診断は、書類調査、現地調査、構造計算といった要素で構成されます。書類は新築時の設計図や施工関係などであり、構造計算のためのデータ収集を兼ねます。

書類からのデータが少なければ、現地調査でのデータ収集が増えるので、時間・労力・費用が増加します。現地調査には劣化状況の把握も含まれます。

構造計算は今ではコンピューターが発達したため手計算より大幅に高速化していますが、計算のためのデータ入力等には多くの時間・労力・費用を要します。

耐賃診断は建物の構造や規模によって必要な時間等は大きく変わります。

軽量鉄骨造等のプレハブ住宅では、計算に必要なデータを建設したハウスメーカーのみしか扱えず、一般の建築士では耐震診断が出来ないケースも多くなります。

マンションは規模が大きいために時間や費用等が大きくなり、また建替えの必要性が生じると権利制限の問題も伴うので、耐震診断の実施には管理組合の総会決議を要することも多く、現実的には困難です。

その他の戸建て住宅の場合であっても、新築時の資料が十分でない場合は、データ収集のために建物の一部を取り壊す必要も出てきます。耐震改修工事を前提とせず、単に住宅ローン減税のためだけの調査であれば、耐震診断の実施は事実上困難となります。

Aタイプの調査方法は、一戸建て住宅で限られた条件の場合にのみ可能なものです。買取再販による耐震リノベーション物件で馴染みのよい方法です。

Bタイプ:旧耐震で耐震診断を実施済の場合

旧耐震で耐震診断を実施済の場合の調査構成

申請を受けた建築士が、別の建築士の実施した耐震診断報告書に基づいて判定を行うものです。

現地調査では、耐震診断が実施された時の条件と相違がないかという照合を主に行います。耐震性に影響が出るような増改築や劣化が生じていないかの現況確認をします。

構造計算は、既に実施した耐震診断において行われているので必要はなく、時間・労力・費用がAタイプに比べて大幅に抑えられます。

耐震改修を行ったマンションでは、この方法によらざるを得ず、国土交通省からの通知においても示唆されている方法です。

なお、耐震基準適合証明書の制度が創設されたのが平成17年だったのですが、その同じ年に耐震偽装問題が明るみになり社会問題化したため、他の建築士が行った構造計算に基づいて証明を出すことを多くの建築士が忌避してしまい、マンションでは耐震基準適合証明書は出ないという認識が広まった一因となっています。

また、耐震基準適合証明書の有効期間が家屋調査から2年間となっているので、2年以上前に実施された耐震診断では証明できないという認識もみられますが、租税特別措置法や地方税法における家屋調査とは現況確認のための現地調査を指すので支障はありません。(注:マンションでは専有部分の現地調査を指します)

Bタイプの調査方法は、時間や費用を抑えて証明書の発行が可能であり、耐震改修工事を行ったマンションや一戸建て住宅の一般的な売却の際に馴染みのよい方法です。

[参考資料]
国土交通省HP 【通知】建築士等の行う証明について(PDF)

国土交通省HP 【通知】市町村長の証明事務の実施について(PDF)

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Cタイプ:新耐震の場合

申請を受けた建築士が、建築時の建築確認申請書類に基づいて判定を行うものです。

Bタイプの耐震診断報告書を建築確認申請書類に置き換えて、同様の手順で行う方法です。建築確認と耐震診断は法的な位置づけが違うために耐震基準適合証明書の制定当初では使えなかったのですが、平成21年にこの方法が耐震診断として大臣認定されたことにより実施可能となりました。

AタイプやBタイプを耐震診断基準による方法と呼ぶのに対して、新耐震基準による方法と呼ばれます。増築の建築確認における既存不適格調書作成の際にも用いられます。

完了検査に合格した物件では、Bタイプ同様の時間や費用で可能となりますが、完了検査を受けていない物件では確認に必要な現地調査等が多くなり、Aタイプと変わらなくなることもあります。

耐震基準適合証明書では、完了検査に合格した新耐震の物件に事実上限定されます。

令和4年度税制改正により、昭和57年以降に建築された住宅はすべて住宅ローン控除等の対象となったので、今後はほとんど用いられることがなくなる方法です。

[参考資料]
H21国住指第2072号 耐震診断法の大臣認定書(PDF)

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現地調査の日程調整にも時間がかかる

BタイプやCタイプにおけるマンションの調査手順は図のようになります。

マンションの調査手順

マンションの場合は設計図面が大きく、また管理上の理由からコピーや持ち出しが容易でなく、現地調査の際に併せて行うことが一般的となります。

このため管理事務所や管理組合と日程調整を行う必要があります。閲覧等の承諾のための事前手続きに時間を要する場合もあります。

マンションの専有部分の現地調査が必須なので、売主または居住者との日程調整にも時間を要します。

耐震基準適合証明書は租税特別措置法からの規定になっており、耐震改修促進法での耐震診断では必須ではない専有部分の現地調査が、耐震基準適合証明書では必須となっています。

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耐震基準適合証明書の発行には想定以上の時間を要することが多いので、売買契約や売出しに先行して調査を行うことをお奨めします。

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